ヒロシコ

 されど低糖質な日日

今日僕はごねる人になった。~クレーマー、クレーマー

具体的には書けない。具体的に書くといろいろ素性がわかってしまうので。だが今日、僕はごねる人になってしまった。とある場所のカウンターのこちら側で、カウンターのあちら側にいる人たちに向かって僕はごねていた。もちろん自分ではごねているつもりなどなかった。そんな自覚はいっさいない。田舎にいるたった一人の母親に誓って、あくまでも正々堂々自分の言い分を主張し、どうしても聞き入れてもらえない、受け入れてもらえないため粘り強く交渉しているだけだった。

向こうには向こうの言い分があり、でもそれは到底僕が容認できることではなかったけれど、木で鼻をくくったように同じ文言を繰り返すだけの相手に対して、僕はといえば、声を荒げそうになるのを必死に抑えつけ、できるだけ穏やかに淡々と、ときには無理してひきつった笑みさえ浮かべながらこちらも同じ主張を繰り返した。はじめはなかった丸椅子が僕の方に差し出された。長期戦になるのかなという懸念が頭をよぎる。

そのうちだんだんと先方が低姿勢になってきた。ひたすら「申し訳ありません」と頭を下げる一辺倒になった。一人だった相手が二人になり、やがて三人に増えた。おや、と思ったときには喋ってるのがいつのまにか僕の方だけになり、向こうは僕の言うことを黙っていちいちうなずき、要所要所で「申し訳ありません」と揃って合いの手のように入れてくる。なんだか調子が悪い。

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そうこうするうち、ときどき僕の方をちらっと見て通り過ぎていく人も出てきた。どのタイミングだったかもう忘れてしまったが、あっ、僕ごねる人になってる、と察知した。かっこ悪いやつ、うざいやつになってた。カーッと顔が赤らむのを感じた。そう思ったら急速に気持ちも萎え、「わかりましたもういいです。これ以上頭を下げないでください。僕はあなた方を理由もなく一方的に責めているわけではありませんから」と言った。せめてそう言うことが、僕のプライドだった。

とうとう僕は引き下がった。なんだか釈然としない。あるいは悪い方に考えれば、そういうマニュアルがむこうにはあって、ごねる人がやってきたら、ある程度説明してあとはひたすら低姿勢で相手の言い分を黙って聞くだけ聞き、相手が根負けするまで耐えるように、と赤字でアンダーラインを引いた一文があるのかもしれない。それはわからない。

帰って夜ごはんのとき家族に話したら、家族は僕の性格を知っているからいつものように笑って、でも「そんなのいつまでもこだわってたってどうせ時間の無断なんだから、さっさと手続き済ませちゃえばいいのに」と上の子が呆れたように言う。「だけどこっちにだって、おいそれとは譲れないことってあるだろ?」と僕は言う。「オレはそんなこと別に譲れないとも思わないからね」と上の子。「おまえは譲れない沸点が高いんだよー」と僕は言い返した。

うちでは下の子がたぶんいちばん譲れない沸点が低い。あいつは逆に低すぎ。次に低いのが僕で、上の子、カミさんの順。カミさんは沸点がいちばん高い人だ。というかどこが沸点か実のところまだよくわからない。そういう沸点の高低差もあるし、そもそも人によって何が譲れない問題なのかというポイントも違うしね。自分にとっては大事な問題でも他人から見ればどうでもいいことだったりその反対の場合もある。

解決策も提示せず代替えのアイデアも出さず自己主張もせず、ただ単に相手をいつまでも責めるだけ、たとえば駅の改札とかで列車の遅延や運転見合わせを駅員に大声で文句言ってる人とかはともかくとしても、このクレームや受け入れられない場合の主張の引き下げのタイミングというか身の引き際は本当に難しいなあと、あらためて今日は思った。一歩間違うと単なるクレーマーに他人には映ってしまうだろう。

さらにクレーマーかそうじゃないかは受け取る側の姿勢によってもきっと変わる。クレーム耐性の高い低いという差もきっとあるはず。ごねる人かそうじゃないかは、パッと見では判断できない。他人のそういう姿を見ても、かっこ悪いなあ迷惑だなあと思っていたけれど、いざ自分がそういう立場になると、ここは簡単に引き下がっていいかどうか迷うケースって案外多い。

他人にどう見られようともその場で粘り続けるか、もっと上の立場の人と話したいと詰め寄るか、あるいは手段を変え別の機会にあらためて言い分を主張するか。あっさり引き下がるか。ケースバイケースだろうけど。年齢とも関係あるかもしれないね。僕の場合は歳をとるにつれてだんだん粘るようになった(笑)。でもひとつ思ったのは、そういう人をこれから外で見かけてもあまり非難がましい目で見ないようにしようということかなあ。

なんかまだちょっと悔しい。言い分が受け入れられなかった悔しさと、図らずもごねる人になってしまった悔しさと両方で悔しい。あ、あ、誰かに何かを主張したいわけじゃなくて、単なる愚痴ですからね。