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クリント・イーストウッドの『ジャージー・ボーイズ』感想~生きている間にあと100回は見たい愛すべき映画

『ジャージー・ボーイズ』を見に行く。僕はふだん映画に点数や星をつける習慣はないが、でももしつけるとしたらこの映画には満点をつけたい。うんにゃ、100点満点の+10点、もしくは★5つ満点で+★1つでもいい。今年のベスト1も『ウルフ・オブ・ウォールストリート』だと2月の時点で早々に決めていたけれど、そっちも考え直さなきゃならないかもね。

ニュージャージー州の貧しい町で生まれ育った4人の若者たちが、大好きな音楽で成功することを夢見て時代を駆け抜けていく、その栄光と挫折の物語だ。『シェリー』や『君の瞳に恋してる』などの大ヒット曲で有名なバンド「フォー・シーズンズ」の軌跡を描き、音楽映画・伝記映画・青春映画というジャンルに収まりきらない感動と興奮があった。

――以下、ネタバレあります。

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「成功の裏話はこのトミーに聞きな。オレがいなきゃ、とっくに終わっていたよ」というようなことを、そのトミー本人がスクリーン左側から道路を横切りながら、(われわれ)観客に向かってカメラ目線で話しかける。まだなにもはじまってもいない段階でね。

このオープニングには胸をワクワクさせられた。そして以降もバンドメンバーのだれかれかが、そのときどきに応じて、自分の気持ちを直接僕らに語りかけてくれたりちょっとした状況説明をしてくれる。だからといってナレーションやモノローグほど饒舌ではない、その微妙な匙加減がなんとも心地よかった。この風変わりな演出は面白かったなあ。

それからすぐの床屋のシーンで、客であるマフィアの親分らしき大物のヒゲをあたることになった主役のフランキーときて。真夜中にバカデカイ金庫を盗み出し、車で運ぼうとしてドジを踏むシーンと続く。またべつの晩には忍びこんだ教会のオルガンで歌の練習をするエピソードと、こうやって主な登場人物とその背景を実に手際よく紹介していく。

あとはよくありがちといえばありがちな、なかなか芽が出ない→人気に火が点く→人気絶頂→女性問題や金銭問題や家庭問題が表面化→バンド解散の危機という流れを辿るのだが、このあたりとくにめざましい見どころがなかったかというとけっしてそんなことはなく、それはひとえに、あいだあいだで挿まれる楽曲のスバラシさに負うところが大きかったかなあと思うのだ。

とくに名曲『君の瞳に恋してる』が誕生して世間に迎え入れられるまでのていねいなシークエンスの積み重ねには、マジに体がぞくぞく震えて困った。いんや、困りはしなかったけどね。ま、歌を聴きながら涙を流す、あのマフィアの親分(書き忘れてたけどクリストファー・ウォーケンさん!)のごときものだったかしら。

それと僕は、トミー役の人、あの人がすごくよかったなあと思うのだ。なんかいかにもチンピラ然として、グループ内で問題起こすとしたら、リードボーカルのフランキーが天狗になって麻薬に溺れるか、そうじゃなければトミーの金銭問題か暴力事件だろうなあと冷や冷やしながら見てたからね。

フォー・シーズンズのことをよく知ってる人は最初からわかっていただろうけど、僕は詳しくないから「そろそろヤバイんじゃないか」とずっとドキドキしていて、案の定スキンヘッドの借金取りが登場した時点で、「そらきた」とすぐさま合点がいったもの。いかにもそういう展開に持っていくため、前々からちょくちょく伏線張ってたよね。

トミーにすれば、バンドメンバーのフランキーもニックもボブも、みんな自分が見つけた才能で、自分が育てたいわば弟分という子分というか、そんな自負みたいなうぬぼれみたいなものがあっただろうから。急にそれを否定されるような発言とか行動があると、正直不安になって同時に許せないっていう気持ちになるだろうなあ、と。

そこのところの弱さと強がりの相反する心理が、トミーの表情には出ていた。トミーが裏社会とのつながりのなかで果たした役割というのも実際多かったのではないかと、興業とかそういう面でね。それに元々地元のパッとしない不良グループがはじめたバンドなんだから、フランキーの歌声がバンドの命だとすれば、トミーこそがバンドの存在意義だったという気もするし。

つまり、女にモテたいとか、一攫千金とか、有名になりたいとか、冴えない地元から脱出したいとか、そういう夢に描けるありとあらゆる成功へのダイナモがトミーそのものだったわけだしね。リーダーという立場を越えてね。それがフランキーにはよくわかっていた。

あとはなんといったってフィナーレですよね。歌って踊ってのカーテンコール。もしも僕がアメリカ人だったら立ち上がって拍手するかいっしょに踊っていたかも。さすがにアメリカ人ではないのでやりませんでしたが。あのエンドロールのしあわせ感を味わうためだけに、また最初から何回でも見てもいいなあと思ったくらいだ。

実際、僕はこの先生きてるあいだに、あと100回はこの映画を見たい。傑作とかいう言葉すら相応しくない、愛すべき映画でした。 

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