ヒロシコ

 されど低糖質な日日

築地市場の豊洲移転問題は夫婦関係を悪化させる

朝の情報番組でやってた築地市場の豊洲移転問題を見ながら僕が、「これもういい加減飽きたよなあ」と正直なところを呟くと間髪を入れずカミさんが、「そんなことないわよ。大事な問題なんだからもっと徹底的にやるべきよ」と言い返してきた。

カミさんは東京都知事選のときから小池百合子さんのシンパであり、僕はどちらかというと鳥越俊太郎さんを応援していて、たびたび意見が対立することはあった。ご存知のように小池さんが新しい都知事に就任したわけだが、それはそれこれはこれ。家庭内での僕の立場がなにかしら窮地に追い込まれるなんてこともなく。政治と家庭はべつもの。

と思いたいが、現実はそうとばかりも言えなかったようだ。いつしか僕は微妙な立場に立たされていたのかもしれない。またそれとはべつに、このところ僕はなんかずっと違和感のようなものを感じているんだよね。その違和感は日増しに大きくなっていく。

例えば盛り土のことにしても地下の空間にしても謎の地下水にしても、そもそも豊洲移転の過程でさまざまな隠ぺい工作をした都庁の体質は確かに問題だと思う。それを新都知事が追及し、計画を延期したり場合によっては白紙撤回したりはそれはもう全力でやっていただきたい。なにしろことは都民のひいては国民全体の食の安全にかかわることなんだから。

だけどさ、テレビのニュース番組や情報番組がこぞって他にたいしたニュースがないからなのか、朝から晩まで豊洲だ盛り土だ地下空間だ地下水だヒ素だベンゼンだオリンピック道路だと、まるで鬼の首でもとったみたいに騒ぎ立てる現状はどう考えても異常だと僕は思うのですね。

じゃあ何もそのことは報道せず、いっさい口をつぐむべきだと思っているかというとそれも違うが、簡単にいうとものには適度というのがあるよねということ。一斉にかん口令を敷けというわけでもなくかといって一斉に騒ぎ立てるでもない、物事にはちょうどいい具合というのがあるんじゃないかと。その僕の言い分もそうとう怪しいし、難しい判断だというのは承知している。

ところがカミさんは、そういう毎度お馴染みのニュースの洪水を見聞きしていてちっとも飽きないと言い張る。もっともっと徹底的にやれと過激なことを口走る。くり返すが、小池都知事がこの問題に徹底的にこだわって解明してくれるのは構わないのだ。都民のひとりとしてむろん応援したい気持ちはいっぱいです。

なんだけどね、やっぱりちょっと、なにかしらの違和感がつきまとうのも正直なところなんだよねえ。その違和感というものの正体を、僕は仕事をしながら考えたわけだけど、結論らしきものがある瞬間パッと閃いたのでそのことをまずは書いてみたい。

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それはね、一連の不祥事が発生したのは小池百合子さんが都知事に就任する以前のことで、小池百合子さんにこの問題の責任がないのは明白。むしろよくぞ数々の不祥事をあぶり出し白日の下にさらけ出してくれたと感謝したいくらいだ。前任の舛添なんとかさんだったらうやむやに終わっていたかもしれないのに。なにしろご自分の不祥事を隠ぺいすることに汲々としていたのだから。

ここで都庁を一般の企業として考えてみるとね、前任の社長の下で起きた不祥事について、その後就任した新社長が次々と明るみに出てくる事実を世間にあらためて報告・謝罪会見する場合、はたしていつまで新社長は不祥事の追及者の任でその場に居合わせるべきだろう問題、というのがあると思うんだよ。

新社長が指示したあるいは看過した不祥事ではないにしても、あるいはどういう経緯でトップになったかはともかく、いまは既に新社長がその企業の顔である以上、企業としての調査報告・謝罪する場合、どこかの時点で新社長がそのすべての責を負うくらいの転換があってしかるべきじゃないかと思うわけですよね。それが火中の栗を拾うということだと。

厳しいことを言うようだけど、それをいつまでも他人事のような、責任追及する検事のような立場でいられたんじゃあ、なんか変じゃない? ということ。そしてこの場合の豊洲問題に直接関係ない都の職員たちにすれば、知事はわたしたちの代表じゃないの? という疑念が湧かないものかあと、それこそ他人事ながら心配になる。

だからって都知事になったばかりに小池知事にすべての責任を押し付けるとか、都民や国民に謝罪しろというわけではないが、定例会見の冒頭にでもひとこと、そろそろ「都民のみなさまにはいろいろとご迷惑おかけして申し訳ありません」くらいはあってもいいのかなあと思う。僕が聞き逃しているだけか、その部分だけテレビはカットしてるんですかね。その可能性はあるけど。

こういの難しいですね。どうなんでしょう。いやまあそんなにこのことを僕は重要視しているわけではないんですけどね。ともかくまあそれがこのところ気になっていたちょっとした違和感の正体だと。

はじめの話に戻るけれどこの日の朝、豊洲問題のニュースには飽きたなあと正直に呟いただけなのに、まるで非国民のような言いぐさでカミさんから僕は糾弾され、食の安全はいいのか? そういう場所で売り買いされた魚や野菜をなんの疑いもなく口に入れることに抵抗はないのか? そういう人に限っていざ自分の口に入る段になると大騒ぎするのよね、とかさんざんな言われようだった。

じゃあ福島の魚や野菜の放射能汚染の問題なんかどうなの? と僕が逆に疑念を差し挟むと、そうい風評被害があってはならないからこそここは徹底的に調べるべきなのよと言い出す始末だ。というかもう豊洲の風評被害はじまっている。というかむしろ豊洲終わってる感が強いと思うけどね。重ねて言うが、小池百合子さんが徹底的に調査するというのは結構なことだと僕も思うんだよ。

――とまあ、そんな些細なことがきっかけで朝から派手な夫婦喧嘩になった。豊洲問題がわが家の夫婦問題に発展して、ああだこうだの言い合いの末、とうとう僕が「こんなに価値観が違う人とはこれ以上いっしょに暮らせない。もう無理。僕がこの家から出ていく」と言ってしまった。もちろん売り言葉に買い言葉。

そもそもいまの家、元々はカミさんの実家なんだよね。元々はというかいまでもカミさん名義だし。つまり僕の方が完全な居候。なので嫌なら出ていくのは僕の方だと僕はいつも思っている。というわけで、喧嘩を強引に終結させ、その後も僕は粛々と出勤の準備をして、とうとう一言も口をきかずに仕事へ出た。行ってくるとも帰ってくるともいっさい言わずに。

仕事をしながら、さっき書いたようなちょっとした違和感の正体とかを考えつつ、今晩はどうしたものかなあとか、だんだん冷静になってくる頭で、やっぱり言いすぎたかなと反省してみたり。いや僕はなんも悪くないとか、そもそもテレビが豊洲問題をこれほどしつこく垂れ流すからだとテレビに八つ当たりしてみたり。政治の話と仕事の話は家庭に持ち込むべきじゃなかったなあとまた反省したりね。

なんだかそのうち仕事が手につかなくなり、いっそ電話して直接謝ろうかとも思ったんだけどさすがにそれは照れ臭い。また電話の途中で怒りがぶりかえしてきたらそれはそれで困ると思ってメールすることにした。ラインなんて気の利いたものに僕は手を出してないので、ここは旧態依然としたメール。

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さっきはスイマセンでした。
行く当てもお金もないので、そこに住ませてください。
ごめんなさい。
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というメールを送信したった。これについては、「すいません」というところを「スイマセン」とカタカナにしたところが僕のせめての抵抗と(ちっちぇー)、行く当てかそれともお金があれば謝らないでこのまま出ていくのかと、自分自身へツッコミつつも。ともかく送信。するとカミさんからすぐにというわけではなかったが、折り返しメールが届いた。

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了解。
仕事気をつけて。
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素っ気ない内容だったけど、やっぱりこれで少しホッとしたねえ。ああ、これで今夜も安心して帰れる場所があるんだと思って。にしても「了解」ってなんだ? 僕の謝罪を受け入れるってこと? これまでどおりわたしの家に居候してもいいわよってこと? 卑屈すぎたかな、いやまあ、べつにいいんだけどね。ただそれだけの話なんですよ。よくある夫婦喧嘩の一コマといえばそう。

何事もなかったようにといえばウソになるし、それ以降もいくぶんギクシャクシタ微妙な緊張感はあるけど、なんとか表立っては平穏な夫婦関係が継続している。ただテレビのニュース番組や情報番組に僕は過剰に神経を尖らせており、「豊洲問題で……」とアナウンサーが発しようものなら、僕は何があっても余計な口を挟まないぞと細心の警戒心は解かずにいる。

できれば、なんかこうもっと大きな、世間があっと注目して一斉に飛びつくような例えば別の企業の不祥事でも起きてくれないかなあと、不謹慎ながら願っている毎日です。おしまい。