ヒロシコ

 されど低糖質な日日

あなたには長いあいだ継続して読んでいるブログがいくつありますか?

ふだん僕が読んでいるブログの数はそれほど多くない。まして何年間も継続して読んでいるブログとなるとほんのごくわずかだ。そもそも同じ人が書くブログが何年間も同じスタイルで続いていることさえ珍しいのだから。もちろん継続的に読んでいるといっても必ずしも毎日読みに行くわけではない。いっときそういう時期もあるかもしれないが、気がついたら平気で1か月以上、長いときには数カ月も訪れるのを怠っていたなんてこともあるくらいだ。

だからといって、僕がそのブログに飽きたとか、そのブログがつまらなくなったというわけではない。このへんの塩梅をうまく説明するのはとても難しい。久しぶりに開いたそのブログには(というより正しくはweb日記だけど)、長女が幼稚園の入園式を迎えたという家族の暮らしぶりが、まだ若いお母さんの視点で淡々と綴られていた。

入園式前日の夜。自分たち夫婦のはじめての子である長女が、明日から幼稚園に通うようになるなんてどうしても信じられない、と二人で長女がまだ赤ちゃんだったころや、2、3歳のころのビデオを懐かしく見たりしている。入園式当日の朝。長女は張り切って朝ごはんを食べ、まだ少し丈が長い真新しい幼稚園の制服を着せてもらってはしゃぐその後ろを、お姉ちゃんの通園鞄をもった次女が追いかけている。

式の前に、家の近くの雨上りのベンチに腰かけ、やや緊張した面持ちの長女と夫婦が代わりばんこに写真を撮る。何もわからない次女はベンチの周りを歩き回って、その同じ写真に納まる。

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幼稚園では、名札とお花を胸につけてもらい、今日から幼稚園の子になりましたよ、と園長先生にやさしく声をかけてもらった長女が、夫婦の心配をよそに、式の最中もひときわはしゃぎまくってみんなより目立っていたと書いている。式が終わって園を出ると、夫婦はもちろん長女もそれなりに緊張して疲れ切っていたのでしょう、お父さんの腕に抱っこされたまま家に帰っていくのだった。

翌日、通園初日。お母さんは長女を園まで送り届けたあと、「喪失感にも似た猛烈な寂しさ」に叫びそうになりながら涙を流し、抱っこしている次女の頭に自分の顔をこすりつけながら帰り道を歩くのだ。長女が幼稚園に行きはじめたら、長女がいない間にあれもできるこれもできるとあたまのなかでいっぱい考えていたことが、いざいなくなってみると、長女がいたからできなかったことなんて実はなにひとつないじゃないか、ということに気づくのだった。

その日の日記を続けざまなんどか読み終って、あー僕はやっぱりこういう誰かの暮らし、日常が淡々と綴られたものが好きなんだなあとあらためて思った。幼稚園の入園式なんて、当事者にすれば思い切りハレの舞台、非日常には違いないけれど、だけどそれは考えてもありえないことが現実に起こっているわけではなくて、とおりすぎて振り返ってみれば、あくまでも日常の延長線上にあるちょっとした非日常に過ぎないものなんですよね。

くり返すが僕は、他のブログの例にもれず、彼女の日記を毎日欠かさず読んできたわけではない。大学時代に同期だったステキな男性と結婚して、仕事を辞め、長女が生まれ、今度は思い切って東京を離れ自分の故郷へ家族で引っ越し、次女が生まれ、と折に触れてその暮らしぶりを遠くから(インターネットの片隅から)そおっと見守るようにしてきただけだ。

かつて僕のブログにメールをもらったのをきっかけに、そのあと彼女とは一度か二度メールのやり取りをしたくらいで、もちろん実際にお会いしたこともなければ、これまでも、そしておそらくこれからも僕の実人生と決して交わることはないであろう人なのだ。なのに、僕はその誰とも知らぬ若い夫婦の長女が幼稚園の入園式を迎えたという日の日記を読んで、パソコンのディスプレイの前でオイオイもらい泣きしてしまっていた。

まあ幸せには違いないだろうけれど、本当のところはただの読者である僕には窺い知ることはできないわけで、それでも、よかったなーとうれしくって。そういえばうちの上の子をはじめて保育園へ預けに行ったのはこの僕で、その日たった1時間だけの慣らし保育のお迎えまでの時間を、近くの喫茶店で所在なく過ごしたことなどを懐かしく思い出したりもしたのだ。

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ほどなくして僕もweb日記をはじめ、ふたりの子どもたち(男ふたり)の成長の記録と、僕ら夫婦の親として人間としてなかなか成長できない記録を日日飽きもせず書き続けてきた。でも結局、僕の方はそのweb日記をある日突然閉鎖してしまった。それを読んでくれていた数少ない方たちが、当時いまの僕と同じような気持ちでいてくれていたのならいいなあと願うばかりだ。

誰かの暮らしぶりを覗くといっても、べつにヒッチコックの『裏窓』のように、本物の望遠鏡で他人の部屋の様子を日がな一日覗いているわけでもないし、いわゆるストーカーのような行為をするわけではない。ただ、書く人が自分の裁量で切り取った日常の、ほんのわずかなヒトコマだけしか実際僕らは窺い知ることはできないのだ。

それでも、おかしなもので、その人にうれしいことがあればこちらも一緒にうれしくなり、その人が悩んでいたり辛そうにしていたり寂しそうにしていたら、同じような心配をする。そんな僕はちょっと変なおじさんなのかもしれないが、きっと実害はないでしょうから僕に継続的にブログを読まれている人はどうか赦してほしい。いや、そういう謝罪をしたいわけではなくて、純粋にステキな日記を読んだときの感動をこうして誰かと分かち合いたくてこれ書きました。

さきほど、また久しぶりに当該の日記をディスプレイの上に開いてみたら、あのときまだ長女のあとを無邪気に追い回していた次女ちゃんが、自分も長女ちゃんとおなじ幼稚園に行きたいとくずる様子が、あいかわらずの淡々としたトーンで綴られていて、なんだかホッと心が安らぐのを感じたのだ。

あなたには、長いあいだ継続して読んでいるブログがいくつありますか? 

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