ヒロシコ

 されど低糖質な日日

糖質制限は危ないのか(桐山秀樹さんの急死)?!

『週間文春』に掲載された吉村祐美さんの証言

今週発売の『週間文春』(3月3日号)はもうご覧になっただろうか。ベッキーさんの不倫騒動や清原さんの薬物疑惑(疑惑ではなくなったが)、甘利元経済再生大臣の政治と金の問題にはそれほど関心があるとは言えない僕でも、「桐山秀樹は糖質制限で死んだわけじゃない!」という桐山さんのパートナーの悲痛な証言が掲載された今週号は、さすがに買って読まずにはいられなかった。

言い換えるとそれほどまでに桐山さんの死は、僕ら糖尿病患者にとって、ひいては糖質制限に取り組んでいる多くの人々にとって、いろいろな意味で(おいおい説明していくが)衝撃的なニュースだったのだ。

『おやじダイエット部の奇跡』などの著者で、「糖質制限ダイエット」の伝道師として知られたノンフィクション作家の桐山秀樹さんが、滞在先のホテルで急死したのは今月のはじめごろだった。62歳というのは、まだまだ早すぎる死だと言わざるを得ない。

この死が報じられてからといもの、マスコミ各方面で俄かに「やっぱり質制限は危ないのか?」と根も葉もない騒動に発展したことはいまだ記憶に新しい。その騒動に終止符を打つべく、桐山さんと長年パートナーとして過ごした文芸評論家の吉村祐美さんが、桐山さんの死と糖質制限との因果関係を次のようにきっぱりと否定した。

「多くの糖尿病患者さんの命にかかわる話ですから、これだけははっきりと言いたいと思います。今回の桐山の急死について、ニュースや他の週刊誌などで、あたかも糖質制限が原因かのように扱われています。ですが、桐山の死は、あくまで心不全で、糖質制限とは関係がありません」

記事によると、桐山さんは死の前日まで友人たちと元気に楽しそうに過ごしていたそうです。決して糖尿病を悪化させ病の床に臥せっていたわけではない。しかしながら桐山さんは6年前に糖尿病と判明した時点で、既に重度の糖尿病患者だったそうなのだ。糖尿病患者の方はわかるだろうと思うが、およそ直近2ヶ月間の血糖値の平均を示す数値HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)が9.4と、いつ合併症を併発するかわからない高血糖だった。

おまけに高血圧・狭心症・心筋梗塞の危険アリと、いわゆる「死の四重奏」状態だと医者に言われたそうですね。「いつ死んでもおかしくないよ」と。ちなみに、僕が糖尿病と診断された時点でのHbA1cの値は10.7で、言うまでもなくこの値は高ければ高いほど重篤ですよ、健常者で4~5の値なのに対して僕はおよそ倍近くあったのだ。桐山さんよりもっと高い(酷い)。おまけに僕はそのときすでに糖尿病性網膜症という具体的な合併症も併発していて、失明の危険ありという診断まで下っていたわけだから。怖いねえ。

まあ僕の話はともかく、どういう縁かは存じ上げないが桐山さんは京都・高雄病院の江部康二先生のもとを訪ね、そこで「糖質制限食」に取り組みはじめる。ご存知のように江部康二先生は糖質制限の第一人者です。するとたちまち血糖値は劇的に改善し、以降忙しい仕事も元気にこなせるようになったそうだ。

江部先生や桐山さんの名前を聞くと、僕は勝手に三食とも主食抜きのいわゆるスーパー糖質制限(厳しい糖質制限)を続けていたイメージがあるが、桐山さんは実際にはそうではなく、先ほどのパートナーの吉村さんの証言によれば、朝はフルーツや野菜のジュースを飲み(スパー糖質制限ではフルーツはNG食品)、お昼はたまにうどんやパスタを食べ(糖質制限ではうどんやパスタなどの炭水化物はNG食品の代表格)、夜は玄米(糖質制限的には玄米も白米も大差なくNG)を食べていたようですね。

なにごとも一辺倒はよくないと、桐山さんみずからそう周囲には言ってそれを実践していたらしい。友人などと一緒に食事をするときは、同じメニューのものを食べていたとか。それでも毎月1回通院し、その検査結果はまったく異常ない数値だった。 

おやじダイエット部の奇跡 「糖質制限」で平均22kg減を叩き出した中年男たちの物語

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年間の死因別死亡者数のうち心疾患によるものは約20万人

厚生労働省が発表した「人口動態統計の概況」によると、平成26年1年間の死因別死亡総数のうち、心疾患(高血圧性を除く)は19万6,926人で、死因別死亡数全体の15.5パーセント、悪性新生物(がん)に次ぐ2番めに多い数字、だそうです。このうちたとえば急性心筋梗塞は3万8,991人で、この数字自体が多いとみるかそれほどでもないとみるかはともかくとして、桐山さんの死もそういうなかのほんのわずか1つに過ぎないという言い方もできるわけだ。

この心疾患による死亡者数のうちいったい何人が糖尿病患者で、何人が糖質制限食を糖尿病治療に取り入れていたのかわからないが、まだまだ糖質制限の認知度がそれほど行き渡っていない現状から鑑みても、決してそう多くはないはずだ。そのことからも、糖質制限が桐山さんの死の引き金となったとする根拠はどこにも見当たらず、むしろ反対に糖質制限をしていない人の死亡者数の方が圧倒的に多いと通常は考えられてしかるべきだ。

さらに桐山さんの場合、糖尿病が判明した時点で、「いつ死んでもおかしくない数値」と」医者から告げられたように、逆に糖質制限によって死期はずいぶん延びたと考える方がごく自然なことだろうと思われる。よって、糖質制限が死の原因だったとか、糖質制限は危険だとか、糖尿病は糖質制限ではコントロールできないとか、軽々しく口に出してほしくないというのがいまの僕の偽らざる心境です。

糖尿病患者の仲間として、同じ糖質制限に取り組む者の励みとして、もちろん桐山さんの死は非常に残念で、寂しいのと悔しいのと恐ろしいのと雑多で複雑な気持ちが交錯し、縁もゆかりもない僕のような人間にとっても、ただの1人の個人の死という以上のエモーショナルな出来事(事件と言ってもいいような)だったのだ。

 

シュレーディンガーの猫とココナッツオイル

僕はある意味、蓋をした箱の中に毒ガスの発生装置とともに閉じ込められたシュレーディンガーの猫である、と常々思っている。箱の蓋を開けるまでは、猫が生きているか死んでいるかは誰にもわからず、理論的には箱の中には同時にその二つの世界が存在しているように、糖尿病患者である僕が、糖質制限をしていない世界と糖質制限をしている世界は、糖質制限をはじめた時点からパラレルに存在するわけだ。

しかしながら結果的に僕が死を迎えたとしても、もはや糖質制限をした世界の僕しか僕の家族は見ることができないので、どちらの世界がよかったのかは僕自身も誰にも比較のしようがない。つまり二つの世界のうちこっち側の僕は、糖質制限をした世界を生きているのだからね。ということはきっとどこかに糖質制限をしていない世界の僕も存在して、そっち側の世界の僕はもうとっくに死んでしまっているか、糖尿病の合併症で失明しているか、病院のベッドの上で糖尿病を悪化させているかもしれません。

という小難しい理屈はやめて、ここからガラッと話題は変わるけれど、最近例のココナッツオイルというのを買ったのだ。ダイエットにはもちろん糖尿病にも効果があるらしい。買うにあたって、正直どれがいいのかさんざん迷ったあげく、よく知っているメーカーで値段や量的にも比較的お手頃だったこの商品を選択した。日清エキストラバージンココナッツオイル13g。近所のスーパーで見つけたものだ。

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朝晩コーヒーに入れて飲みはじめた。この中鎖脂肪酸というのがどうやらエネルギーになりやすいという。人間の体はブドウ糖を分解してエネルギーとしているのはご存知ですよね。糖質制限をしてそのブドウ糖が不足してきたら、人間の体はケトン体というのを利用するらしいです。中鎖脂肪酸はこのケトン体を効率的に作りだすことができるのだとか。その中鎖脂肪酸が豊富に含まれているのがココナッツオイルなのだ。

と、この説明も自分で書いていて実はよくわからない(笑)。まあでもとにかく試してみます。効果のほどは後日あらためて報告するかもしれないし、しないかもしれませんが。瓶の蓋を開けてみて驚いたのは、中身が白い蝋燭みたいな固まりだったこと。なんでもココナッツオイルというのは、低温で白い固まりになり、25℃を上回るとやわらかい液状になるらしい。

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この固まりをスプーンで削り取る感じ。コーヒーに入れてもいいし、料理の油としても使える。僕はもうココナッツオイルを使いはじめてしまったので、ココナッツオイルを買った時点で使った場合と使わなかった場合が理論上同時に存在したかもしれないが、一度使ってしまったら、使わなかった世界のことはパラレルワールドで、村上春樹さんの『1Q84』みたいには、見ることも知ることも経験することもできないのだ。  

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