ヒロシコ

 されど低糖質な日日

映画『パリよ、永遠に』ネタバレ感想

『パリよ、永遠に』を見に行く。「パリは燃えているか?」で有名なあの史実の裏側、息詰まる最終局面の舞台劇を映画化した。第二次大戦末期、フランスを占領していたドイツ軍は、ヒトラーの命令によりパリ壊滅作戦をいままさに決行しようとしていた。

ドイツの敗戦はもはや濃厚であり、戦略上なんの意味もないが、連合軍によってベルリンを爆破された腹いせに、ヒトラーはパリを爆破する作戦を企てる。

市内にかかる橋という橋を、エッフェル塔、ルーブル美術館、オペラ座など誰しもが文化的・歴史的価値を認識していた建造物を破壊する。

最前線で指揮を執るのが将軍コルティッツ。彼の執務室はドイツ軍が接収したホテルの一室で、そこはかつてナポレオン3世が愛人を囲い、夜毎忍び込んでくるための秘密の抜け道がある部屋だった。

その抜け道を使って中立国スウェーデン総領事ノルドリンクが将軍の部屋に忍び込んでくる。停戦調停にやってきた。彼はスウェーデン人でありながらパリ生まれパリ育ちの生粋のパリっ子で、外交官。片やコルティッツは教養豊かな貴族ではあるが、軍人。

パリ開放をめぐり、ふたりだけの外交交渉の火蓋が切られる。それは息をもつかせぬ緊迫した駆け引きであり、脅し、黙秘、はぐらかし、懇願、挑発、おだて、ユーモア、虚虚実実なんでもありの実に見応えある応酬だった。

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ことにノルドリンクは最初スパイの嫌疑をかけられ身の危険さえ感じる。その後もなんども無下に追い返されそうになるが、帰るそぶりを見せながらわざと緩慢な動作で抜け目なくチャンスを伺うという。

自尊心や名誉という抽象的なこと以外、コルティッツにとってはどうもあまり分があるというか得るものがある交渉だというふうには思えなかった。なのにだんだん本人にそう感じさせなくするあたりのノルドリンクの口巧者ぶりには目を瞠るものがあった。

ときにはのらりくらり、ときには鬼気迫って、そうしながらコルティッツに「このままヒトラーに忠誠を誓い、軍人として職務を全うするか、パリを守った男として子どもたちに堂々と胸を張り、後世に名を残すか」と究極の選択を突きつける。

交渉が進むにつれて次第に明らかになるのは、将軍にはヒトラーの命令に従わざるを得ない絶対的な理由があったということ。コルティッツは云う。「反対に君が私ならどうする?」と。

個人的感想なのは云うまでもないことだが、はじめ平和を希求しパリの街を破壊から守ろうとするノルドリンクにぼくは絶対的な正義があると思っていた。どちらかといえば彼に肩入れして見ていた。

だけど途中から、ノルドリンクの交渉の巧みさにかえってどこか胡散臭さが透けて見える感じがしてきた。逆にはじめはヒトラーを盲信するこの人もやはり狂った軍人なのかという目で見ていたコルティッツが、徐々に人間としての弱さを見せ始めてからは断然コルティッツびいきになってきた。

他の人が同じ映画を見てどう感じるかはわからないが、自分でもこういう逆転現象は面白いなあと。これが意図した演出ならばまんまとぼくはその罠に嵌まったことになる。

まあそれにしてもコルティッツという将軍がその現場にいた歴史の偶然性というかむしろ必然性みたいなことを強く感じた。

元々は舞台劇らしいですね。それでもバルコニーから見える街並みが、まだ夜明け前の真っ暗なうちから黄金色に輝く早暁のパリへと刻々と変化していくさまを見せていくところなんて、いかにも映画ならではでよかった。

これ、まったく同じ映画を江戸開城で勝海舟と西郷隆盛でやれると思うんだけど、三谷幸喜さんか宮藤官九郎さんあたりどうなんだろう? 

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