ヒロシコ

 されど低糖質な日日

映画『はじまりのうた』を見た感想

『はじまりのうた』を見に行く。小さくてとってもキュートな映画。なにより心底から音楽っていいなあと思える。主演のキーラ・ナイトレイさんすごくよかった。彼女のギターと優しく儚げな歌声も最高だったよ。

つきあっていた恋人が急に人気ミュージシャンになり、ひとり取り残された彼女は、偶然出会った友人(男、やはり売れないストリートミュージシャン、すごくいい人)に誘われ彼のライブに行く。そこで請われるままステージに上がって作ったばかりの歌を歌う。

それをまた偶然その場に居合わせた落ちぶれた音楽プロデューサーが聴いていて、是非とも契約したいと口説かれる。彼はいまでこそ落ちぶれた生活をしているけれど、かつては凄腕プロデューサーとして幾人もの大物ミュージシャンを育てた実績のある男だった。

というふうなね、まあ半分おとぎ話のような話で、あとの半分は失恋とか家庭崩壊とか現実的な悲しくて湿っぽい話というわけだ。このプロデューサーを演じるのがマーク・ラファロさん。ぼく的にはつい最近見た『フォックスキャッチャー』でアマチュアレスリングの金メダリストを演じていた。

あの映画のときとは似ても似つかぬ風貌が、これ同じ俳優? と疑うくらいの演技というか役作りの幅広さを見せられて驚いた。この人とキーラ・ナイトレイさんは、結局ふたりで組んでアルバム(正確にはそのデモテープ)作りをすることになる。

その過程でいろいろケンカしたり支え合ったりしながらいい関係を築いていくのだ。恋人関係になりそうな雰囲気も少しは匂わせながら、でも彼女は別れたはずの男への未練をまだ完全に絶ち切れなくて、マーク・ラファロさんにも実は別居している奥さんと娘がいる。

つまりお互い乗り越えなければならない問題を私生活に抱えて生きているのだ。ふたりの関係はどうなるのか。音楽は彼らの抱える問題をどう解決してくれるのか。ふたりはそれぞれの問題とどう向き合うのか。という具合に物語は進んでいきます。

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オーディオスプリッタ―を使ってふたりでひとつの音楽プレイヤーから同じ音楽を分け合って聴きながらニューヨークの街を夜通し歩き回るシーンの素晴らしさ。疲れたら公園のベンチやスロープ階段に腰を下ろして休む。休んだらまた歩きはじめる。

素敵な音楽があると平凡でツマラない風景でも違ったふうに見えるんだよね、光輝いて見える、なんてことをいう。ホントそうだなあと思った。まあそれは音楽だけに限ったことではなく、同じ風景を誰と見るかとかね、そういうことでも違ってくるけど。

ニューヨークの街と順番に再生される音楽とがシンクロしてくる感じがなんともいえずよかったんだよなあ。それにしても自分のプレイリストを他人に見せるの恥ずかしいという気持ちわかるわー。僕も松田聖子さんの『制服』とか入ってるの知られるのどうしてか恥ずかしいもの。

あとはやはりニューヨークの街角の有名な場所もそうじゃないちょっとした路地裏とかどこかのアパートの屋上とか地下鉄のホームとかで、警官がきたら慌てて「撤収! 逃げろー!」なんて感じでアルバム録音するシークエンスも最高だったよね。いつのまにか彼らの仲間というかバンドメンバーが揃って。

キーラ・ナイトレイさんがマーク・ラファロさんの娘の露出が多いかっこを見て、「好きな男に振り向いてもらいたかったらそのかっこうから直さなきゃ」といって、「この方がセクシーでしょ?」といい返されると「そうね、でもまず男に想像させなきゃ」というところ。

三人でひとつのベンチに座ってアイスクリーム食べながら会話してるだけのシーンなんだけど、僕はあそこもすごく好き。それから友人の例のストリートミュージシャンがキーラ・ナイトレイさんをはじめて自分の部屋へ招き入れたとき、急いでお茶の準備しながらなにげにカップにスプーンをコツンと当てて「おいしくな~れ」と小声で魔法をかけるところも大好き。この人、つくづくいい人だった。

なんか全体のストーリーの流れ自体はまあよくあるパターンといえばそうなんだけど、こういうちょっとしたアドリブのような(本当は台本があるのでしょうが)台詞や仕草が満載で、そういうところがいちいちぐっとくるのだった。 

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