ヒロシコ

 されど低糖質な日日

映画ももいろクローバーZ『幕が上がる』を見た感想

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『幕が上がる』を見に行く。すっごくよかった。地方の弱小高校演劇部が全国大会を目指すという話だ。恋も受験もあるんだろうけど、ひとまずそれは置いといて一途に演劇に打ち込む。久々見るなあ、こういうド直球で爽やかな青春映画。号泣ポイントがあるわけでもないのにいつのまにか涙が出ていた。

主人公高橋さおりのモノローグで明かされる高校演劇のシステムが面白い。面白いというか、高校野球の甲子園大会に象徴されるような春と夏の年2回の全国大会があるわけではなく、高校演劇の場合は1年にチャンスは1度きりなのだという。

秋から冬にかけて地区大会~県大会~ブロック大会と階段を駆け上がっていく。いつでも負けたらそこで終わり。しかも全国大会は翌年の夏で、たとえ予選を勝ち抜いたとしてもそのときの3年生は既に卒業しており、全国大会には出られないというおかしなシステムなのだ。

さおりの言葉を借りるなら、「地区大会ではよくわからない審査員によくわからない審査をされる」のだと。これもそういうモノローグがあった。事実というか関係者みんなが実際そういうふうに思っているのだろう。笑っちゃった。

だけどそういう変則システムだからこそ、高校演劇で全国を目指すのは至難のわざなのだ。演劇部を指導することになった「元学生演劇の女王」こと美術の吉岡先生の台詞を今度は借りると、「舞台の上の偶然に頼らない。最後に勝つのは計算しつくされた(つまり練習で積み上げた)演技」ということになるのだ。

大会が近づくにつれ怖くなってくるという部員たちの気持ちがまるで自分のことのようにびんびん伝わってきた。「負けたらそこで全部終わっちゃうんだよね」とさおりがいう。せっかくみんなと一緒にこうして練習するのが楽しくなったのに、大会なんかなければいいのにと。

全国を目指すといいながら、その同じ口から矛盾するような言葉が洩れる。その揺れる気持ちが痛いほどよくわかった。しんと静まり返った教室に、志賀廣太郎さん演じる国語の先生が宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を引きながら、宇宙の広がりについて語る独特の渋い声が響き渡る。

宇宙は光の速さよりも速いスピードでどこまでも無限に広がっていく。私たちがどんなに追いつこうと頑張ってもだから宇宙の果てには絶対に辿りつけない。辿りつけないかもしれないけれど、それでも少なくとも私たちはどこまでも行ける切符は持っているのだと。さおりの心に素直に沁みる。

けれどこの映画を見ている僕は、人生にも青春にもいずれ終わりがあることを知っている。いまという瞬間にはどこまでも行ける片道切符を持っていても、決していつまでもどこまでも行けるわけではないことを知っている。なんかそんなことを考えていたら自然と涙がこぼれていたのかもしれません。

演劇部の舵を切る吉岡先生役を、黒木華さん。この人の登場でそれまでのほのぼのムードがある意味ガラリと一変するのだ。それは映画のなかの演劇部もそうだし、高校演劇をテーマに掲げた映画そのものも。彼女の熱血指導ぶりとクールな役柄が中盤を引き締め底上げをし、かつ全体にドライブをかけた。

ユーモアを一手に引き受けていた顧問役のムロツヨシさんのとぼけたオフビート感もよかった。田園地帯や夜の無人駅などロケ地の風景がよかった。さりげないインサート映像が気が利いていて、学校の屋上、渡り廊下、なぜかそこだけ古ぼけた自転車置き場とどれも絶妙のタイミングでぐっときた。

主要キャストを務めたももクロちゃんの5人は本当に素晴らしいね。巷間漏れ聞こえる彼女らの軌跡と、芝居と向き合い人生と向き合う今回の脚本がぴたりと符合したことも大きかったと思う。とくに部長のさおりを演じた百田夏菜子さんはほとんど出ずっぱりで、彼女の演技力には驚くほかなかった。

「単なるアイドル映画ではなく」という称賛の仕方はたぶん間違っていると僕は思うのだ。プロモーション映画ではないけれど、これは正真正銘のアイドル映画だ。なぜなら僕はこの映画を見て彼女たち “ ももいろクローバーZ ” のことが大好きになったから。 

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