ヒロシコ

 されど低糖質な日日

映画『ゴーン・ガール』ネタバレ感想

『ゴーン・ガール』を見に行く。原作は全米で大ベストセラーになった小説で、日本でも後味の悪いミステリーとして話題になった(笑)。ぼくも読みたいなあとは思いながら残念ながら未読です。

監督はデヴィッド・フィンチャーさん、主演はベン・アフレックさんとロザムンド・パイクさん。 ロザムンド ・パイクさんという女優さんのことは申し訳ないが知らなかった。

と、いうような情報だけで劇場に走ってもたぶん後悔しないと思うよ。こんなツマラナイ感想読んでるよりその方がいいに決まってる。まあ面白いにもいろいろあるだろうけど、ゾクゾクして途中でイヤ~な気持ちになりながらそれでも笑っちゃうし片時もスクリーンから目が離せないくらい面白かった。傑作。

上にも書いたようにそもそも大ベストセラーの映画化なんだから、いまさらネタバレくらいでこの映画の魅力がいささかも損なわれることはないと思うが、原作を知らない人はそこらへんも含めて楽しめた方がいいでしょうから、以下十分注意して感想を書きます。でも完全にネタバレなしとは……(いかないかもね)。

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さて、ニックとエイミーという結婚5周年を迎えた夫婦がいた。誰もが羨むしあわせな夫婦だと思っていたのに、実はそうでもなかった。これはでも案外よくあること。ところがある朝、夫のニックが散歩から帰ってきたら奥さんのエイミーがいなくなっていた。

で、警察がやってきていろいろ調べていくと、キッチンに血痕が残っていたりと、どうやらエイミーは謎の失踪事件に巻き込まれていることがわかってくる。俄かにマスコミが騒ぎはじめる。最初世間の同情を一身に集めていたニックだったのに、捜査が進むにつれひょっとしたらニックがエイミーを殺したのではないかという疑惑が浮上してくる。

それもそのはず、エイミーの日記が見つかったのだ。そこからニックとの結婚生活が既に破綻していたこと、その原因がニックの金銭問題(無職だし)や女性問題(浮気していたし)にあったこと、エイミーが妊娠していたこと、エイミーの保険金が上乗せされていたことなど、どれをとってもニックに不利な状況証拠ばかりが次から次へと出てくる。

忽然と姿を消したエイミーはいったいどこへ行ったのか。どんな事件に巻き込まれたのか。ほんとうにニックに殺されたのか。それとも――。というところで映画はだいたい折り返し点なんですね。後半はさらに話が二転三転するのでますます目が離せなくなる。

エイミーの日記が大きな鍵になるあたりが興味を惹く。他人に見せる見せないにかかわらず、多かれ少なかれ日記というのは虚実ないまぜになっていることがあるのではないか。

それにいまどきはフェイスブックやツイッターの投稿が火種となって、世間的に大騒ぎになるなんてことも決して珍しくない。あっというまに一部が全部となり、小さなウソが大きな真実になってしまうような社会に僕らは生きているのだ。

エイミーの日記にあるように、ニックはほんとうにとんでもないウソつきでダメなDV男だったのか。それともそれはエイミーのウソや誇張や誤解や妄想が生み出したものだったのか。ということを観客はついつい考えてしまう。

もちろん僕なりのニックという男の印象はある。確かに誉められたヤツではないかもしれないが、だからといって人を殺すほどの悪人だろうか。わからない。ぼくか男だということとも関係するだろうし、しょせんニックの一面しか見てないことも承知している。

映画を見ながらそういうことをずっと考えるわけで、映画が終わって一応の決着がついたあとも、振り返ってまた考えると、どこからどこまでが真実でどこからどこまでがウソだったのか理解があやうくなった。むしろそのことに気づいてハッとする。

結婚してる人はよくわかると男うんだけど、たとえば奥さんや旦那さんの両親や親戚の集まりで、程度の差こそあれ理想的な夫や妻を演じてみせたり相手の両親に望まれる態度をとるようなことはふつうにあるよね。

恋人同士だって彼や彼女の友人たちの前で、ふだんふたりきりでいるときとは少し違った顔を見せたりお互いの役割を演じたりすると思うんだよ。そうでない人がいたら逆に羨ましいと思うけど。

あと、なにか事件があって犯人を知ってるという人にインタビューすると、「そんな悪いことするようには見えなかった」とか「会えば必ず挨拶してくれる気さくな人だった」などと答える。その人のごく一部それも強烈に印象に残るたったひとつのエピソードでもあると、それだけで全人格を語ってしまうことはままある。

つまりそういう印象操作はやろうと思えば簡単にできちゃうのかもしれないということです。ニックとエイミー夫婦にも、ちょうど同じような事態か出来して、背筋が冷やっとするものを感じた。

ベン・アフレックさん、いい感じに凡庸さが滲み出た夫を演じていてよかった。特徴あるあのアゴまでリアルにいじられっぱなしだったし。それになんていうか、いかにも若い女子大生と浮気してそうだなあとか。マザコンでシスコン(双子の妹がいる設定)だろうなあとか。役柄のイメージですよ。

ただどうしても僕はダメ男のニックに同情的になってしまうのだが、なにかあって奥さんの血液型や親しくしている友だちの名前や学生時代のことを問われても、意外と知らないんじゃないかとかね。過去のことにしても根掘り葉掘りたずねたわけではないし、まして聞いた話がそっくり真実かなんてふつうはわからない。

一方エイミーを演じたロザムンド・パイクさんも素晴らしかった。まず美人、つんと取り澄まして気位が高そう。でもそれは作られた仮面で、実は彼女の両親が彼女がまだ子どもだったころから作りだした理想的な女の子(「アメージングエイミー」という童話のモデルとして)がそのまま大人になった女性、をまさに完璧に演じていた。

エイミーはなにもかもがアメージングなんだけど、そういう人であっても失敗することはある。人間だもの(by みつを)。まあそれをいってしまえば結婚こそがある意味最大の失敗だったんだからね。

ところが彼女はものすごく頭がよくて、失敗やつまづきや想定外のことが起きても、計画を柔軟に変更できるというか立て直しできるだけの能力があるのだ。そこらへんが後半の見所になる。当然書けないんだけどね、すげーよ。

それとこれは映画を見たあとから読んで「ああ」と納得してもらえればいい話で、彼女のすることのなかに無駄なシーンというか、結果ストーリー的に拾われなかった伏線というのが結構あるのだ。

「え、あのシーンどうなったの?」というところが、よくよく考えると、だけどあれ撮っておかないと辻褄が合わないよねとか、ストーリー上はあっさり素通りしてるけど裏側では絶対必要だよね、というシーンだったりする。あーなんか説明していてもどかしいなあ。

この失踪事件の、というよりエイミーという存在がこれまでの人生でやってきたこと全部そっくりなにかのアリバイだったと思わせるような、それこそ人生のアリバイつくりを実践しているようなシーンの数々にぼくは戦慄してしまった。

エイミーの行動に限らず、伏線を散りばめてそれをていねいに回収していくドラマはそれはそれでスッキリして気持ちいい。だけどときとして余裕がないふうに見えてしまったり、為にする伏線というふうにあざとく見えてしまうこともある。

その点、フィンチャー監督は伏線っぽいシーンに先々あえて触れず惜しげもなく捨てたり単なる通過点として使ったりしているから、ドラマにすごく奥行きや厚みが出るのな。このあたりは好みにもよるでしょうが。

さてここまで書いてきたように主演の夫婦ふたりは実にあやしげなんですが、ニックの双子の妹も重要な役割を演じていて、この人は登場人物唯一の常識人のようでいて僕は最初に登場したシーンから「おや?」と感じるところがありました。えへへ。

たとえばきわどい性的なジョークをニックと交わせるくらい近い関係なんかなあ、とか。しかもエイミーとは不仲であることをあえて隠さない会話とか。あるいは観客のミスリード(?)を誘うよう仕向けていたのかしら。

ま、そういうことでいえばエイミーの両親、ことにお母さんも娘が失踪してすぐに捜索のための専用サイトをつくったりドメインを取得して手際がよすぎるとか、こっちもあやしさプンプンだった。

エイミー失踪事件を捜査する警官が男女のペアで、上司の女性警官がニックに同情的で男の方が否定的だという逆転のバランスも上手い。ふたりの警官もそうだけどあとから登場するニックの弁護士も有能という触れ込みのわりには思ったほど能力を発揮できない。

そういう夫婦以外の第三者の力で事件が解決してしまうことを避けた演出はとても効果的。しょせん夫婦のことは夫婦のこと。傍目にはわからないということなのだろう。

そしてなにより最初のシーンで寝ているエイミーの「頭のなかを開いてなにを考えているのか覗いてみたいよ」というニックのモノローグが、もっともシュールでもっとも納得いくものだった。

なんか話の核心の周辺をウロウロするようにグダグダといっぱい書いちゃった。自分でもよくわからない感想になったが、それにしてもエイミー、どこ行っちゃったんでしょうか? 

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