ヒロシコ

 されど低糖質な日日

映画『レッド・ファミリー』感想

『レッド・ファミリー』を見に行く。正確には『イヴ・サンローラン』を見に行って時間が合わず、急きょこっちに変更。驚いたことに都内では新宿武蔵野館と立川でしか上映していない。なんだけど、見おわったいま、まあ大々的に(公開を)やれる映画ではないなあと納得。なんだけど、すごく面白い。こっちに変更してきょうのところは大正解だった。

――以下、ネタバレもあります。

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むかしね、ドリフターズのコントで「もしも○○が~だったら」というのがあったけど、もしも隣の家族が全員スパイだったら、という衝撃的な設定。隣家に引っ越してきた夫婦とおじいちゃんと高校生の一人娘は、いっけん仲睦まじい理想的な家族に見えるけれど、実は北朝鮮の工作員だった。

という話を、スパイである偽装家族の方を主役にして、一方でしょっちゅう家族げんかが絶えない隣の韓国人家族との対比のなかで描く。北の家族の方は、4人のなかで奥さん(役の女性)がいちばん工作員としての身分が高い班長で、彼女の義父と夫と娘は(その役の人たちは)いわば彼女の部下。もちろん全員他人。

一歩外に出ると夫婦や親子を演じていても、一歩家のなかに入れば、その立場がくるっと変わってしまうところがまず大笑いだ。そう、これ基本はコメディなのだ。工作員だからいちおう、というかそれが任務だからしょうがないんだけど、脱北者や逆スパイを捕えて殺したりという残忍なところもあるが、そういうのを大真面目にやればやるほどなぜか可笑しい。

その可笑しさっていわゆるブラックユーモアですが、自然と滑稽に見えてしまうという側面も大いにある。突然、南の家族が揃って北の一家を訪ねてきたとき、玄関正面に飾ってある歴代の国家主席3人の肖像画をいそいで取り外すというデリケートなギャグもあった。ギャグというより、むしろこういう設定の上では当然のこととしておこなわれる。でもそれが客観的には笑えるのだ。

一方、返す刀で南の家族を能天気な家族として扱ってるのも皮肉が効いていたし、なによりフェアな印象を受けた。北の偽装家族のことは、どこまで真実が含まれているのか、あるいはまったくの絵空事なのかわからないが、あまり一方的な感情ではフェアじゃないと思う。その点ここに登場する南の家族の空気読めなさぶり、バカっ家族っぷりは徹底していた。

まあでもコメディではあるんだけど、なんだかせつないよねえ。北の工作員たちはそれぞれ祖国に大切なほんとうの家族を残して(人質にとられて)任務についてるわけだから。しかも、彼らが寝返らないよう監視する立場の工作員たちもいて、その人たちもおなじように祖国に家族を残してきている。

ゲラゲラ笑いながらもどこかで、そういう陰を常に引きずっている映画だった。北だ南だ、専制だ民主主義だというイデオロギーの対立以前に、家族を愛するという感情や、人を信じたり敬ったり、ときには本心をぶつけあったりすることには、だれしも共通するものがあるんだよ、ということを強く意識させられた。

映画はね、後半になってもコメディ基調はおおむね維持しながら、結末は実に残酷で悲痛なものへと転換していく。それは機会があれば実際見てたしかめてください。ぼくは、(このところいつもで恥ずかしいが)オイオイ泣いた。

北の家族が、隣の南の家族のことを、娘のミンジとおなじ高校生で恋仲になるひとり息子チャンスの名をいって、「チャンスの家族」「チャンス一家」というのが、字幕でたまたまそうなっていただけかもしれないが(それなら字幕が)、ぼくはなんとなくリアリティがあってよかったなあと思った。  

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