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映画『るろうに剣心 伝説の最期編』感想

『るろうに剣心 伝説の最期編』を見に行く。原作の漫画もほとんど知らないのに、シリーズ物は見はじめちゃうと最後まで見届けないと気が済まない性質で。でもすごく面白かったです。見てよかった。

あらすじはどこから書いていいのかわからないし、あまりたいしたストーリーもないし、とにかくこういうのは世界観がすべてだという気がするので割愛。『るろうに剣心 京都大火編』の後編という位置づけ。前編から引き継いで今回はすべてがクライマックスへ向けて一直線だった。

――以下、ネタバレあります。

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まずアクションのすばらしさをまっさきにいっとかなきゃ失礼だろうね。なんていうんだろう、剣術アクション? 世界的に見ても非常に珍しいと思うので、ここは最大限評価すべき。とくに、だだっ広い荒野とか道場のように整備された場所ばかりで闘うんじゃなく、窮屈な場所のアクションが多いという点が、ぼくは前後編とおしてすごく印象に残った。

狭い屋内には柱だって段差だって大きな荷物だってあるし、屋外に出たら道は狭く複雑に入り組んで木だって植わっている。周囲にあるものすべてが楯になりジャマにもなる。そういう狭い場所で長い刀を振り回さなきゃならないのは、剣の腕前だけではなく自身の身体性がいかんなく発揮されて、そこがぼくは面白いなあと思った。いかにも日本的なアクションシーンだなあと。

主人公緋村剣心を演じる佐藤健さんは、悔しいくらい手足がすらりと長くてそれがムチのようにしなやかだから、剣術アクションがピタリとハマる。マッチョなアクションではないない。そこも日本的。クールジャパン。むろん佐藤さんの天性の運動神経もあるだろうけど。

それと、師匠役の福山雅治さん。あいかわらずかっこいい。福山さんがいうとたいした台詞でもないのに、なぜかぜんぶかっこよく意味ありげに聞こえてくるから不思議だ。ふたりがおなじ画面に出てくるだけで、絵になるを通り越して事件になるほどですね。

武井咲さんは、今回あんまり見せ場なくてかわいそうだった。ラスボス志々雄役の藤原竜也さんは、とうとう覆面ぬがなかった。覆面じゃなくて包帯。原作知らないから、てっきりそういう展開なのかと期待したんだけど。最期あの包帯とって闘うのかと思ってたから。藤原さんよくあの役引き受けたなあ。僕、たぶんトンチンカンなこといってると思いますが。

トンチンカンついで、要するに志々雄というのは、一歩まちがえたら剣心自身の姿でもあったわけだからね。それは志々雄はもちろん、剣心もきっと承知していることだと思う。で、そのへんに剣心と志々雄の双方の苦悩がよーくにじみ出ていた。志々雄の剣心への「先輩」という呼びかけね。あの憎しみ。近親憎悪みたいな。

師匠がね、修行のなかで剣心に足りないものは「どんなことがあっても生きて帰ってくるという意志だ」みたいなことをいうのは、たぶん志々雄にもそれがないんだよね。つまり志々雄は、明治政府の転覆という目論見はあるけれど、それは基本的には復讐心から出発していることだから、じゃあそれが叶った先のプランというか望みが志々雄にはない。

逆にいうと、志々雄はどこかで「生きて帰らなくてもいい」という孤独感や寂寥感に支配されている。しょせん死に損なった命だという。で、剣心もそれと同じ気持ちなんだよ。だってふたりの境遇ってあまりにも酷似しているんだもの。ともに政府のために働いて政府に捨てられた。

だけど福山師匠は、それでは剣心は志々雄に勝てないと思ったのだ。道ずれで死んでもいいと思っている相手とは、いまのままでは気持ちが五分と五分なんだから、おそらく剣術で上回る志々雄が順当に勝つ。剣術の腕を短期間の修業で磨くのは無理なので、だったら、闘う心構えを変えるほかないわけだ。

それはには、「自分だけは絶対生きて帰る」「誰かが自分の帰りを待っていてくれる」ということを強く意識することだ。それがあってはじめて、道ずれくらいまでもっていけるかもしれない。と、まあこういのも漫画の話なので、あまりマジメに語っても可笑しいかもしらんが。ははは……

ラスボスの志々雄の強さは半端じゃなかった。あの刀ふりまわすと炎がブワーッと噴くの、すげえかっこいい。最終的に1対4でようやく勝った。それも相手は15分間しかまともに闘えないという大きなハンデを背負ったうえで。裏を返せば1対4、15分間というハンデがあってもそれだけ悪役の強さにリアリティがあるってことだ。僕はね、剣心がスーパーマンじゃなかったところが、逆によかったと思う。

ラストはやっぱりどうしても泣いちゃうんだけど、伊藤博文もかつては高い志を持って奔走した一介の幕末の志士だったということでしょうね。そういう素直な解釈でいいんじゃないでしょうか。途中ずいぶんヒドイ描かれかたもしてたけど、伊藤博文とて明治政府のひとつのパーツに過ぎないわけで、しょせん剣心も斉藤一も伊藤も時代に咲いたあだ花だったということだ。

勝ったのは剣心でも伊藤博文でもなく、最後に勝って笑ったのは明治という時代だったわけだ。 

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