ヒロシコ

 されど低糖質な日日

映画『プロミスト・ランド』感想

『プロミスト・ランド』を見に行く。とってもよかった。大好きなマット・デイモンさんに外れなし、ということを再認識する。ストーリーを手短に説明すると、シェールガス田を開発する大企業のエリート営業マン(マット・デイモン)が、田舎町の土地買収をはじめるも、環境問題に詳しい有識者や環境保護活動家らの反対にあい、思わぬ苦戦を強いられる、というもの。

――以下、ネタバレもあります。

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大まかなジャンルで区分すると、この映画はたぶん社会派ドラマということになるんだろうと思うけれど、扱ってる内容がシェールガスの採掘に絡む環境汚染の問題だけに、いまいちばんホットというか非常にデリケートな話題なんですよね。

なんだけど、ロバート・レッドフォードさんとかトム・クルーズさんが出てきて、かんかんがくがくの意見を闘わせたり法廷闘争になるような、いわゆるガチガチの社会派ではなく、大自然の美しい風景とその土地で代々生きる人々ののどかな暮らしに、ある日とつぜん小さな騒動が降ってわいてきた、という体のこじんまりした感じで描かれているのが面白いなあと思った。

なので、全体的に地味で静か。社会問題だからと、声高になにかを叫んだり大演説したり、強力なメッセージやケレンミたっぷりの迫力ある映像があるわけでもない。あくまでも田舎町のちょっとしたドタバタという印象なのだ(実際にはもちろん違いますよね)。

それよりも、ていねいにディテールを積み重ねていって、「それでどうするの?」「どう考えるの?」と、町の人たちにも僕たち観客にも、穏やかに問いかけるみたいな。結論だって観客に委ねるしかないわけだから。

たとえば、マット・デイモンさんは車はAT車なら運転できるが、マニュアル車だとちょっと練習してみたけどクラッチをうまくつなげないとかね。車にかぎらず、そういうものにこだわりがない、道具としてしか見てこなかった彼の仕事ぶりがうかがえる。

今回の仕事の場であるその田舎町にはじめて入るのに、パリッとしたスーツを脱ぎ捨て、シマムラのような雑貨店でいかにもなシャツやズボンを見繕うのも可笑しい。ほら、なにか災害が起きるたびに、政治家が新品の作業着を着るみたいなこと。

そのくせ、ブーツだけはおじいちゃん譲りのかっこいいブーツを大事に大事に履いていて、それだけはなぜか履き替えない。で、シャツの値札がついたままというヘマをやらかし、ポーズで買ったことはすぐ見破られるんだけど、同時に「いいブーツ履いてるじゃないか」というのもちゃんとわかってもらえるとかね、気が利いている。

小さな子どもが家の表で遊んでいると、わざとらしく「きみが地主さんかい?」と必ず声をかけるのも。それが彼のセールストークの常套(笑)。どこへ行ってもこういうトークで成功してきたんだろうなあというのを見せておいて、実はこれはあとでちゃんと仕込みとして生きてくる。

マット・デイモンさんが顔を洗うシーンが二度出てくる。しかも、二度とも洗面台に溜めた水の中にカメラがあるという凝った撮影。ほかにもいつもペットボトルの水を飲んでいるし、一度だけ水道の水を飲もうとして仕事の相方から「飲まない方がいいわよ」と忠告される場面もある。

それと、遠くの牧草地にヤギと大きさが変わらないくらいの小さな馬が見えるシーンを二度くり返すのも、環境破壊というテーマで観客のミスリートを誘おううという意図と、マット・デイモンさんがだんだん良心の呵責を感じはじめるその気持ちの暗示という点で、これも印象的だった。

あと、カラオケの曲がブルース・スプリングスティーンさんというのも、いかにもいまのアメリカの苦悩そのものを象徴していてちょっと笑った。

まあやっぱりお金がテーマですよね。それも大きな見たこともないようなお金。土地買収にはそれが殺し文句なんだから。毎日の生活のため、子どもをいい大学にもやりたいし、いまお金が必要な人だって当然いる。反対に、子どものために恥ずかしくない選択をしたいんだという人だっている。

一方で、老人はもう大金はいらない。それよりはこの自然を守りたいという(ある意味、身勝手な)気持ちもある。大金を当てにして、早くも高級スポーツカーを買っちゃう人を見て、マット・デイモンさんがちょっと複雑な顔をするんですね。そういうことはこれまで何度も経験してきただろうに、今度ばかりはなんか違う、と思わせる顔。

最後、レモネード売りの少女に後押しされる場面はぐっとくる。「おつりはあげるよ」と軽い気持ちでいうと、「いらない。値段はちゃんとそこの貼り紙にかいてあるでしょ」とすげなく断わられる。お金というのはあぶく銭のように転がりこんでくるのではなく、ものをつくって売って、それも商品には適正価格というものがあって、と教えられるんですね、少女に。あ、こんなこと僕がいわずもがなだけど。

もちろん反対派の人の、ストレートな環境破壊へのメッセージも出てくるにはくるが、大集会といっても体育館のバスケットコートを一時的に借りる程度の集会だしねえ。万事、そういうふうに仰々しさがなくストーリーが展開するから、肩は凝らないですよ。

心配しなくても、ロマンスもほんの少しあって、なにより圧倒的な自然の美しさ、ユーモア、音楽もよかったなあ。

ラストについてはさすがにどうなるか、いまの時点で書いちゃうのはルール違反だという気がするので書きませんが、ま、「考えましょうよ」ということだと思います。面白かったです。 

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