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映画『グレート・ビューティー/追憶のローマ』感想

『グレート・ビューティー/追憶のローマ』を見に行く。あらすじもなにもあったものじゃない映画だけど、僕はこれ大大大好きですね。いい映画だった。くり返し見たい。でも、感想はおそろしく書きづらいかも。とにかくおしゃれで、おしゃれで、おしゃれ泥棒。泥棒は出てこないですが。この際、大人の世界に憧れる人はもれなく見た方がいいと思う。

とはいえ、おなじ大人でも住む世界が違うというか、主人公が着てるスーツとかパンツとかシャツとか、絶対僕は着られないだろうなあということだけは、はっきりわかった。黄色のジャケットに白いパンツで胸ポケットに赤いチーフだからね。出てくる女の人もスタイル抜群で、美人というわけでもないんだけど近寄りがたく、あと音楽もいい、音楽にのって年齢とか関係なく老いも若きもみんなごく自然に踊りまくる。

ちょっとしたカットや台詞もいちいち含蓄があって、なにより夜のローマがすばらしく美しいのだ。退廃美っていうの、そういうの見てるだけでうっとりしちゃった。それゆえ、明け方のローマが柔らかな光に包まれる雰囲気も対照的によかった。そのローマの街を主人公が歩き回る。

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若いころたった一作だけ書いた『人間装置』という小説が空前の大ヒットとなり、それ以後は雑誌のコラムやインタビュー記事を書いて暮らしている老作家。65歳だといってたかな。れいの黄色いジャケットの持ち主。夜な夜な乱痴気パーティーに明け暮れ、みずからを俗物だと悟りつつも、そのことを恥じてはいないが、どこか虚しさや喪失感を感じて生きている。実にチャーミングなおじいさんですよ。

あえてストーリーらしきものを探せば、ある日この老作家のもとへ男が訪ねてきて、「私の妻は先日死んだんだが、彼女の日記を見たら、私のことは、人生のよき伴侶だった、とだけわずか2行しか出てこないのに、あとはみんなあなたへの愛がつづられていた」というようなことを打ち明ける。

その彼女こそ、いまでは夜な夜なドンチャカ騒ぎ女遊びもさんざんしつくしてきた老作家の、なんと初恋の人であり、童貞をささげた女性だったというわけです。老作家は彼女に捨てられたものと思いこんでいて、いまも彼女の面影が作家のこころの底には居座っているのだった。

空疎だと思ってきた自分の人生はいったいなんだったんだろうと。悲しみに打ちひしがれると同時に、激しいショックを受ける。でもまあ、落ち着いたら、そのことがきっかけとなって、老作家はまた小説を書いてみようかという気にもなるんだけどね。かすかな希望というか光が差し込む感じで。

そういうストーリーもべつにあってもなくてもいいくらい、というか、その初恋のエピソードにそれほど重きを置かない方がむしろよかったかなあ、というくらいほかにもたくさんの人々の面白いエピソードが満載だったよね。なにより、ローマという街が事実上の主人公の映画なんだし。

さきほど、出てくる女の人はスタイル抜群と書いたけど、たしかにパーティーにはモデルのような人がたくさん出てくるが、なかにはそうともいえない(シツレイ)人もいて、年齢のいったストリッパーであるとか、100歳を超えるシスターとか、あるいは若い修道女というのも、清楚なイメージの象徴としてたびたび登場する。

女の人ってさ、これ僕思ったんだけど、老作家にとっては(つまり監督にとって)ローマの街そのものというか、朝のローマの顔と昼間のローマの顔と夜のローマの顔と真夜中のローマの顔と、そんなことすら超越したローマの歴史そのもの、という感じのメタファーでもあるのかなあと。

僕なんか、この主人公に比べれば、まだまだひよっこで、なにもドラマチックな人生を送ってきたわけでもないけれど、それでもなぜか他人を見るような気持ちではいられなかったですね。あんなふうに全然ダンディじゃないけどね。そこがこんちくしょーと思うけれども。

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