ヒロシコ

 されど低糖質な日日

『オルセー美術館展 印象派の誕生ー描くことの自由ー』感想

国立新美術館で『オルセー美術館展 印象派の誕生ー描くことの自由ー』を見る。いやー、これはほ~んとによかったよー。お世辞でも誇張でもなんでもなく。1回順番どおりぐるりと見て歩いてまだ少し時間に余裕あったから、はじめに戻ってもう1回気になる絵をずんずん見てまわった。平日で大混雑というほどでもなく、全体的に大きなキャンバスの絵が多かったので、わりとみんな引きで見てたからね。

今回の展覧会の目玉、ポスターにもなってるマネの《笛を吹く少年》は、入場してすぐのコーナーにあった。イメージしてたのよりこれもだいぶ大きな絵で、遠目にもカラフルな色彩が「あっ」と目を惹く。ライティングの影響もあるんだろうけど、その一画だけキラキラ輝いて見えた。

だけど近寄ってよく見えると、いやよく見なくてもわかるのは、使ってる色って白と黒と赤とあとひとつふたつとかそれくらいしかないんだよね。ちっともカラフルじゃない。なのにこの華やかな色づかいの感じはコントラストが際立ってるからで、とくに少年の上着の黒とズボンの赤は非常に鮮やかなコントラストだ。ズボンの黒いラインがはじめ輪郭かと思ったらラインだという錯覚(?)も、たぶん意識的なものなんだろうなあ。

しかし、この少年、ポーズだけで実際に笛を吹いてる感じがしないなあ、というのは今回はじめて実物をまぢかで見た僕の感想です。あ、disじゃないですぜ。

おなじくマネの《読書》もよかった。ソファにすわる女性の背後で本を読む男はマネの息子だそうで、その朗読を聴いているのがマネの奥さんという家族総出の絵。驚くことに、本を読む男は後年加筆されたのだとキャプションがついていた。だとすると絵のタイトル《読書》というのは、それ以前はなんだったのかといういらぬ疑問が浮かぶ。でもそれを調べるすべがない。

f:id:roshi02:20190529182851j:plain

あとは順不同で気になるところを書いていきます。有名どころではミレーの《晩鐘》はやはりよかった。この絵まで見られるとは思わなかったのですごくラッキー。それにしてもミレーのこの絵、ずいぶんこじんまりとした絵に見えた。《笛を吹く少年》とか、あとに控えるモネの大作《草上の昼食》などと比べると、ひっそりと展示されてる印象を受ける。

それなのに、というかそれだからというべきか、「祈りの絵」の前ではしばし厳粛な気持ちになるのだった。ダリの、この絵にまつわる逸話はぼくも知っているが、なんかそんなふうにはとても見えないんだよね。並んで展示されてるブルトンの《落穂拾いの女たちの招集》も、同じようなタッチの落ち着いた雰囲気の絵でした。

さきほどのモネの《草上の昼食》は、完全な作品だったらどんだけデッカイ絵なんだというくらいしか感想なくてすみません。モネついでにいうと《サン=ラザール駅》が、いかにも印象派の絵という感じ。この駅舎の上に架かっているのがヨーロッパ橋で、カイユボットの《ヨーロッパ橋》を僕は昨年、ブリヂストン美術館の『カイユボット展』で見たばかりだ。

で、そのカイユボットの代表作ともいえる《床に鉋をかける人々》に、今回のオルセー美術館展でようやくお目にかかることができたのはうれしい。印象派のパトロンだったカイユボットが、労働者階級の男たちを題材に描いたという、まあ一般的な印象派の絵とはちょっと異なる画風の絵だけど、僕はこれも好きだなあ。

アレクサンドル・ファルギエールという人の(はじめて聞いた)《闘技者たち》とか、ブグローの《ダンテとウェルギリウス》は、大迫力で反対側の壁に張りついて見てもたぶん、圧倒されそうなくらいの力強い絵でしたね。

あと今回すごくいいなあと思ったのが、シスレーの絵。これも昨年「ミユラー美術館展」の点描画家を紹介した展覧会に、いまちょっとそのときの感想ブログ読み返したらシスレーの絵も何点か出ていたようなんだけど、あのときはほとんど記憶に残らなかった。《雪、マルリー=ル=ロワの農家の庭》や《ルーヴシエンヌの庭》は、僕の大好きなモネの《雪のアルジャントゥイユ》を思わせる絵で、いっぺんに好きになった。《洪水のなかの小舟、ポール=マルリー》もよかった。

そのほかでは、ラファエリの《ジャン=ルー=ポワトゥーの家族、ブルガヌーの農民たち》の素朴な力強さがよかった。ラトゥールの《デュブール家の人々》は複数人の肖像画で、全員喪服というのがなんともいわくありげで気になった絵。肖像画のコーナーもよかったね。ほとんど知ってるのはなかったけど。

「印象派の風景 田園にて/水辺にて」のコーナーは、いちばん大きなホールで、両側にずらりと作品が並び、実に壮観だったよー。ここに至るまで既にそうとうワクワクウハウハ状態だったのに、このコーナーに入った途端、「うわーっ」と小さく歓声をあげそうになったもの。見応えあったなあ。

ゴッホやゴーギャンやルソーが来てないから、地味なオルセーだっていう人もいるみたいだけど、そんなことまーったくない、と断言していい、というか僕はそう思った。すばらしく充実した、満足度の高いオルセーでした。できたら会期中もう1回行きたい。それにしても、どれも舌を噛みそうなタイトル! 出品作品リストと照らし合わせながら必死に書き写したよ。