ヒロシコ

 されど低糖質な日日

読書

スティーヴン・キング『リーシーの物語』を読んだ感想(ネタバレあり)

スティーヴン・キングさんの『リーシーの物語』(上)(下)を読む。最後まで読んわかるのは、これ全編ラブレターだったってこと。ちょっとずつちょっとずつ核心をほのめかして先を読ませてしまうから、なかなかそうと気づかないけどね。で、そういうのあい…

ラテンアメリカ文学の傑作『別荘』を読んだ感想

ホセ・ドノソ『別荘』を読む。分厚い造本に活字もびっしり埋め尽くされたこの本をぼくは夢中になって読んだ。こういうぶっ飛んだ空想を頭のなかに想い描く人がいたのだとしたら(実際いたわけだけど)その人は絶対イッチャッテルし、かつ、どこまでも自由な…

『バージェス家の出来事』を読んだ感想

エリザベス・ストラウトさんの『バージェス家の出来事】を読む。読み終って最後本を閉じる瞬間、ぐっと胸にこみ上げてくるものがあった。それが何なのか。ああ、生きるって大変なことだなあという溜め息のようなものか。ああ、生きてるって素晴らしいなあと…

綿矢りさ『ひらいて』を読んだネタバレ感想

綿矢りささんの『ひらいて』を読む。実は初綿矢りさ。途中まで挑戦したことはなんどかあるが最後まで読んだのはこれがはじめて。今回もやはり最初はちょっと戸惑った。なんちゅうか、筆力に圧倒されてひとつの言葉さえも疎かにできないような窮屈さを覚えた…

芥川賞受賞作/小野正嗣『九年前の祈り』を読んだ感想

『文藝春秋』3月号芥川賞発表号に全文掲載された小野正嗣さんの『九年前の祈り』を読む。主人公のさなえはカナダ人の男と同棲して男とのあいだに希敏(ケビン)というひとり息子をもうける。しかし男は早苗のもとを去る。希敏は精神的に不安定になり、都会の…

片岡義男『ミッキーは谷中で六時三十分』/パトリック・モディアノ『ある青春』感想

片岡義男さんの『ミッキーは谷中で六時三十分』を読む。久しぶりの短編集。僕はどちらかというと、そのつど新しい小説世界に入り直さなければならない短編集よりじっくり読める長編の方が好きなのだが、たまにはいい。そしてこれも久しぶりに大学生のころ夢…

チャド・ハーバック『守備の極意』を読んだ感想

チャド・ハーバックさんの『守備の極意』(上)(下)を読む。守備というのは野球の守備のこと。この題材にしては珍しく、主人公がピッチャーでもホームランバッターでもない。ヘンリーが守るのはショートだ。ショートというのは僕の中でいちばん野球が上手…

松家仁之『優雅なのかどうか、わからない』を読んだ感想

松家仁之さんの『優雅なのかどうか、わからない』を読む。舞台は東京の吉祥寺。主人公は出版社勤務で離婚したばかりの40代後半の男。代々木のマンションと高級家具ひと揃えを別れた奥さんに譲り、自分は家を出て井の頭公園に面した中古の一軒家を賃貸契約す…

ジョン・ウィリアムズ『ストーナー』感想~自分だけの宝物にしておきたい生涯の一冊

ジョン・ウィリアムズの『ストーナー』を読む。作品社のこの本の装幀は無垢で飾り気がなく偏屈そうでそのくせどこか気高い。まるで主人公ストーナーの生き方そのもののようだ。ページを繰る指先が震えていたのは、この冬いちばんの寒さが部屋の暖房をほとん…

ジュンパ・ラヒリ『低地』を読んんだ感想

ジュンパ・ラヒリさんの『低地』読み終る。短く美しいセンテンスで丁寧に編み上げられた心地いいリズムに酔いしれる。図らずもひとつの家族となってしまった人々のずしりと重い歴史の現場に長いこと立ち会った気分だ。インドはカルカッタで育った兄弟スバシ…

ケイト・モートン『秘密』を読んだ感想

ケイト・モートンさんの『秘密』(上)(下)読み終る。ぐいぐい引き込まれた。上手いなあ。面白かったです。面白かったけど「これミステリーかなあ?」とも思った。いわゆるそういうジャンルに括られてますよね。たしかに冒頭に殺人事件が置かれている。そ…

ブルース・チャトウィン『黒ヶ丘の上で』感想

ブルース・チャトウィン『黒ヶ丘の上で』読み終る。どの一瞬も疎かにしないこまやかで美しい自然描写と、どの視点も止まったようにゆっくりと流れる時間がまるで僥倖のごとく心地よい1冊。 ふたりは雨の中、羊道を登った。丘は雲に隠れていた。低く垂れ込め…

桐野夏生『ポリティコン』感想

桐野夏生さんの『ポリティコン』(上)(下)読みおわる。いきなり不穏な空気感のなかではじまるので、もっとオドロオドロシイ話になるのかと思ったけれど、「オ」が抜けたどちらかというとドロドロした話だった。読みはじめとおわりの印象がガラリと違うの…

西加奈子『漁港の肉子ちゃん』感想

西加奈子さんの『漁港の肉子ちゃん』読みおわる。西加奈子さんの本を読むのはじめて。というか日本の若い作家の本読むことも数少ないからなあ。単純にタイトルに惹かれた。いったいどんな話なんだろうって。総じて上手いよね、いまの人たち。こういうタイト…

水村美苗『 母の遺産 新聞小説』を読んだ感想~『金色夜叉』とか『家政婦は見た』とか

水村美苗さんの『母の遺産 新聞小説』を読みおわる。新聞小説というサブタイトルには二重の意味があって、ひとつはこの小説自体が実際新聞に連載された小説であるということ。もうひとつは、尾崎紅葉の『金色夜叉』という明治時代の代表的な新聞小説の影が通…

ポール・オースター『闇の中の男』感想

ポール・オースターさんの『闇の中の男』読みおわる。妻を亡くした書評家の老人が、眠れぬ夜を過ごすために頭のなかに創りだした架空の物語と、夫をイラク戦争で亡くしての失意のどん底にある孫娘と日がな一日映画を見ながら暮らすいっけん穏やかな日常生活…

ローラン・ビネ『HHhH プラハ、1942年』感想

ローラン・ビネさんの『HHhH プラハ、1942年』読みおわる。おっもしろかったなあ。全部で 257 の断章でできているから、僕のようにわりと細切れに読んでいても、いつでもスッと小説のなかに入ってゆける。けっして愉快な話ではないけれど、平明な語り口とユ…

大江健三郎『晩年様式集 イン・レイト・スタイル』感想

大江健三郎さんの『晩年様式集 イン・レイト・スタイル』読みおわる。なんかこれは少し難しかったなあ、という印象です。難しいというのはスタイルのことで、内容についてはいつものようにわりと平明で、やはりいつもの登場人物たちが出てきて最後は作家が生…

スティーヴン・キング『11/22/63』感想~アンヌ隊員と恋に落ちたウルトラセブンの・ような話

11/22/63(上) (文春文庫) 作者: スティーヴン・キング 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2016/10/07 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る スティーヴン・キングさんの『11/22/63』(上・下)を読み終わる。上巻はいつもどおりゆっくりめに読…